「おおぉぉぉ〜‥‥お前はあぁぁ!‥‥‥むぐっ!」

シロォ!?って、口塞ぐなあ!

「‥‥お静かに‥‥‥」

 わお‥‥シロが一瞬にして、和服姿の美人な兄ちゃんになったよ‥‥ミスターマ○ックもびっくりだな‥‥‥しかも、俺を抱えてジャ―ンプ‥‥力持ちだな‥‥

 その前に、どういう仕組みで俺は‥‥俺たちは空中に留まっているんでしょうか‥‥

と、いきなり翠琉が笑い出す。

「‥‥お前が馬鹿で助かったよ‥‥」

 クロ助、何気に切れた?

「貴様‥‥気でも狂ったか?‥‥まあいい‥‥止めだ!!」

出来る(・・・)()ならば(・・・)、やってみろ‥‥」

 ああ!またそんな挑発して!駄目だってば!殺されるってマジで!ってか‥‥

「(ボソッ)なあ、下降りねえ?後さ、どうやって俺たち空中に浮いてんのか、タネ明かししてほしいんだけど」

「すぐに片がつく‥‥黙っておれ‥‥‥」

 言葉で一蹴、俺撃沈。

いや、だからさあ‥‥そんな、睨まなくてもいいじゃんか‥‥‥ちょっと聞いただけなのに‥‥

「御光よ‥‥」

 シロが呟く‥‥一体なんだ‥‥?

「どういうことだ!なぜ身体が動かない!?娘!何をしたあ!!」

 クロ助ご乱心‥‥?

「どうした?来ないのならば、こちらから行くぞ?」

 

完全に優劣が逆転していた。手で数珠を弄びながら、操鬼を眺める。それを操鬼は怒りと畏怖の念を込めて睨む。

 

「足元、見てみろ‥‥」

 

 翠琉の言葉に誘われるように、操鬼は自分の足元を見る、そして愕然としてしまった。

 そこには幾何学的で複雑な陣が描かれていた。

 

「いつの間に!」

「そう‥‥(ばく)(じゅ)だ‥‥これでお前の動き、全て封じた‥‥私がただで殴らせると思ったか‥‥愚か者め‥‥‥」

「貴様‥‥何をする気だ‥‥」

 

 もはや、操鬼に余裕はない‥‥ただ恐怖の念に駆られ、目の前の娘から視線を放せないでいた。

 

「こうするに決まっている‥‥」

 即答かよ、お前‥‥お?シロ?

「始まる‥‥‥解!」

 

 シロが一言なんか言った途端に、俺たちは光の膜らしきものに包まれた。

 間を置かずに翠琉が数珠を構える。

「古今東西、日、出うるは始まり、日、沈まんは終わり‥‥我集い、誘うは灼熱の儀式‥‥其に捧げるは聖なる抱擁‥‥‥」

「‥‥い‥‥嫌だ‥‥やめてくれ‥‥助けてくれ!!」

 

 情けを請うが、翠琉は操鬼のそんな言葉に耳を貸そうとせず、呪を唱えあげた。

 

「我、汝と契約せし者也り‥‥南の守護神朱雀よ、紅蓮の炎従え我の前へその姿示せ!」

 

―ブワアアァァァ―‥‥

 

 うっ!わああ!すげえ!滅茶苦茶でっけえ鳥が出て来たよ!言葉の通り、火の鳥だ。

「轟炎をもって薙ぎ払え!」

 しかも、翠琉のその一言で全部終わっちまった‥‥‥紅蓮の鳥が、本当に一瞬でクロ助を焼き払った‥‥跡形もなく‥だ‥‥

 これも、いつもの夢だったりして‥‥何か、現実味がねえ‥‥‥

「サンキュー‥‥‥」

 俺は、半ば放心状態で手をヒラヒラさせて呟いた。

「あ!」

 

 反射的に由貴が翠琉に駆け寄ったが、間に合わず黒い怨気が翠琉に直撃した。

 その衝撃に耐えかねた翠琉の痩身が揺らぐ

 

<‥‥‥苦しめ‥‥苦しむがいい‥‥破魔一族の娘よ‥‥我が最期の呪詛でな‥‥>

 一陣の黒い風に乗り、操鬼の最期の言葉と哄笑が響き渡る。

 

 俺は、倒れ込む翠琉を抱き留め、クロ助の残像を凝視した。

幻とか、幽霊とか‥‥ましてや運命なんて、信じるほうじゃなかった。そう、この瞬間(とき)までは‥‥でも、否応なく“腕の中にある重みが総て夢じゃない、現実なのだ”と無言で俺に語りかける。

 

 そして、この出会いが、全ての始まりだとは、この時の俺は知る由もなかった‥‥‥


〈序章・了〉