「そんな‥‥馬鹿な‥‥あいつが、そうだというのか‥‥?」
翠琉は、呆然と呟く。
「とにかく、助けないと!」
そう言って飛び出そうとする周を押し留めたのは、誰でもない翠琉だった。
「待て‥‥少し、確かめたい‥‥」
「翠琉姉様!?」
白銀に支えられ、左手で周の右手をしっかり掴む。
「もしも、あいつが匠葵耀尊だというのなら‥‥剣の創造主というのなら‥‥」
そう、神剣の真の主であるならば、これくらいのことは、一人で乗り切れるはず‥‥それが、魂に刻まれた記憶の力‥‥
「‥‥判りました‥‥」
周は、その言葉に構えた錫杖を素直に下ろした。
そう、どうこう言っても由貴に羅刹の攻撃は一切届いてはいない。寸での所で、総て回避していた。
「くそっ!」
きりがねえっ!避けてばっかりだと、こっちがもたねえ‥‥とにかく、隙ついて一気に片付けるしかねえよなっ!
「覚悟!」
大きく振りかぶりやがった!チャンス!!
由貴が懐に入り込む。そして、ほんの一瞬生じた隙に‥‥
―ザシュ!
肉を斬る確かな感触‥‥いや、人じゃないって判ってるよ?でも‥‥何か、やけに生々しく手にその感触が伝わってきて‥‥
成功したことよりも、人を斬った事に、俺はショックを受けてしまった。
腹を切られた羅刹は、その傷を抑えながら‥‥口に笑みを浮かべて立ち上がる。
「どうやら、間違いないようだな。お前は‥‥‥まあ、いい‥‥今日のところはこの辺でひくとしよう。次に剣交えるときを、楽しみにしているぞ‥‥」
良かった、結構思ったよりも元気そうだ!あんまり深手にならなかったんだな、うんうん。
「おう!気を付けてな!」
「馴れ馴れしく声を掛けるな!」
言いながら、黒装束の鎌男、去るっていうか、消え去った。
「‥‥間違い‥‥ない‥‥あいつが‥‥‥」
身体が揺らぐ。どこか遠くで周の必死に自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。向こうから由貴が駆け寄ってくる気配がぼんやり判る。しかし、抗う術を見出すことが出来ずに、翠琉はそのまま意識を手放した。
〈第一章・了〉