人って適応能力が優れてるよなぁ〜‥‥

 蝙蝠の羽付けてパタパタ飛んでるやつとか、首の長いトカゲっぽいのやら、兎と鼠を足して二で割ったようなの‥‥とにかく、妖怪大図鑑に出て来そうな変な生き物がいきなり大量発生した挙句、それに取り囲まれたっていうのに

「こんなのもいるよね、世界は広いし。」

 ってなカンジで変に納得して結構落ち着いている。

 まあ、ね‥‥女の子にだけ戦わせて、その後ろに飄々と隠れてるっていうの、何か嫌だし‥‥伊達に身体鍛えてるんじゃないしなっ! 俺も、負けてらんねえよな!武器武器っと‥‥

「これでいいや!」

 ‥‥ん?しっ‥‥視線が痛い。

「なっ‥‥何?」

「あんたまさか‥‥それで戦うきじゃないでしょうね‥‥」

 言って指すのが、俺の構えている藁箒だ。

「そう、だけど‥‥」

「ふざけてるの!?」

 げっ!マジ怒り!?あまりの迫力に俺は声が出なくて、俺は壊れたからくり人形よろしく、首をぶんぶん横に振る。

「藁箒で、どうやって戦うっていうのよ!!」

「いやだって、これしかなかったし‥‥とりあえず、振れればいいし‥‥」

 うう、視線が痛いよ。

「足、引っ張らないでよね!?」

 ムカムカ‥‥そこまで言われる筋合いねえやい!負けてられるか!

 

 由貴は、藁箒を構えると、先に駆け出した周を追い掛けた。

 そんな二人の後を追い、印を組み呪詠唱しようとした桜を、正宗はそっと止める。

「お父はん?」

 何故止めるのかと、言外に問いかける桜に、正宗は何時になく厳しい表情で言う。

「まだ、時はきておらぬ‥‥」

「でもっ‥‥」

 言い募る桜に、ふっと表情を和らげて正宗は、だけどしっかりと諭すように言う。

「大丈夫じゃよ‥‥信じてやれ。」

 桜はその言葉にぐっと押し黙ると、神妙な顔をして頷いたのだった。視線を正面に移す、その先にいるのは由貴‥‥‥“異形のモノ”と呼ばれる醜を藁箒を巧みに使いこなし、次々と薙ぎ倒している。

「あんた、守ってやってや‥‥」

 そう祈るように、誰に言うでもなく呟いたのだった。

 

 しばし、両者微動だにしなかった。周りの喧騒から切り離された空間が、そこに存在した。

 先に動いたのは翠琉だ。呪詠唱しながら梵天に向かい印を切る、同時に高く跳躍した。呪が終わると同時に、目を塞ぎたくなるような閃光が梵天を覆った。

「目眩ましのつもりか?実につまらぬ‥‥茶番にもならぬな‥‥」

 だがしかし、冷ややかな嘲笑をその口許に湛えた梵天には余裕すら感じられる。

 翠琉の手には何時現れたのか、一振りの日本刀が握られている。

「覚悟!梵天っ!!」

 躊躇なく振り下ろされたその太刀は、梵天に届く事はなかった。肉を裂く鈍い音と周の悲痛な叫びが響く。

「姉さまっ!」

 翠琉は一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。劈くような衝撃が‥‥迸るような熱が右肩を襲った。

 一瞬遅れて、血飛沫が上がる。

「大事ありませんか?我が君‥‥」

 黒装束を身に纏った青年が、梵天を庇うように立ちはだかる。それをさも当然といわんばかりに、梵天は微笑を浮かべたまま頷く。そして、視線を翠琉に向ける。

「惜しかったな、娘‥‥ああ、そうだ、羅刹天‥‥丁度良いわ、お前も永き眠りより醒めたばかり‥‥腕慣らしに少し相手をしてやれ‥‥我は少々疲れた、休むとしよう‥‥」

 その言葉に、羅刹天と呼ばれた青年は恭しく膝を折ると頭を垂れた。

「御意。」

 返事を聞いたのか聞いていないのか‥‥羅刹が応えるのと同時に、梵天はその場から姿を掻き消していた。

「‥‥ま‥‥て‥‥‥」

 鮮血を流し続ける傷口をそのままに、翠琉は立ち上がる。再度剣を構えるが、羅刹天は一薙ぎでその剣を飛ばす。

「何と弱い‥‥話にならんな」

 無表情のままにそう冷たく言うと、一度振り落とした鎌首を擡げた。

「翠琉っ!」

 白銀が庇う様に、翠琉を覆う。

 

 のおおぉぉおおお!!?

 今、俺口から心臓が飛び出て「こんにちは」って言うかと思ったぞ!?こっええぇ‥‥だってさ、化け物を藁箒で殴り倒していたら、いきなり剣がブーメランみたく回転しながら飛んできて、箒の柄をスパンと切り落としたんだぜ!?

 一歩間違ったら、俺の首が‥‥箒の柄みたいに飛んでたのか‥‥?俺はアン○ンマンじゃないから、首飛ばされた時点で、ご臨終なんですが‥‥

 やべえ、嫌な汗が背中を伝う。

「翠琉!」

 ん?白銀??って、やべえじゃねえか!!何時増えたんだよ、あの黒マントはっ!!鎌なんて物騒なもん持ってるし‥‥翠琉は肩かたドクドク血を流してるし‥‥あのままだと、白銀も翠琉も真っ二つじゃねえか!

「させるかよっ!」

 俺は、反射的に目の前の刀を手に取った、そのとき‥‥

「!?」

 

凄まじい‥‥記憶の奔流が由貴を襲った。

 

『ほら、これをあげよう‥‥()()御魂(のみたま)の宿った剣だ。私の渾身の一作‥‥切れないものはない‥‥()都御魂劔(みたまのつるぎ)という、うちの一つだ。』

『‥‥、流石は大兄、見事な一振りだな。』

 億劫もなく、素直な賛辞を述べるその青年に、苦笑を漏らす。

『そう、褒めないでくれ‥‥なんともくすぐったくて叶わない。』

『だが、本当に良い刀だ。』

 真面目に続ける青年に溜息交じりに言う。

『その剣に認められた証拠だよ。布都御魂は主を選ぶからね‥‥認めぬ相手が振るっても、鈍ら刀より役に立たない。』

 満更でもなさそうに、剣を手に取った青年は両刃の剣を翳す。それを見やりながら、言葉を続けた。

『これには、一対の兄弟剣がある』

 

―そう、その剣の名は‥‥

 

「‥‥(すう)月天(げってん)(じょう)‥‥佐士(さじ)()(つの)(かみ)の宿った剣‥‥か‥‥?」

 って、俺、何言ってんだよ!でも、何なんだ?この剣は‥‥俺初めて持った筈なのに、異様なまでに手に馴染んでるっていうか‥‥唐突に、この剣が何なのか、理解した。

 いや、“思い出した”か?‥‥うん、こっちの表現の方がしくりくるかな。

 布都御魂のうちの一つ、佐士布都神の宿った二振りの剣から成る神剣‥‥それが、この崇月天定。その片割れがこの崇月‥‥?

「‥‥お前、まさか‥‥()()耀(ようの)(みこと)の‥‥?」

 いやいや、白銀さん?そうボクに疑問投げられても、俺自身良く判ってないんだってば‥‥そのまえに、しきなんとかって誰よ?

 皆、固まってるや‥‥敵さんまで固まってるっておい、どうよ?

「お前は一体‥‥試してみるか‥‥」

 って、何試すっていうんだよ!ああ!!寄るなっ!黒尽くめ鎌男っ!

「あっぶねえじゃねえか!殺す気かよ!」

「俺は、お前の敵ぞ?」

あ、そうか‥‥古今東西、敵は倒すものだって決まってるもんなあ‥‥ってうわっ!?鎌大きく振りかぶりやがった!

「あっぶねえ〜‥‥って‥‥」

 うっそぉ、マジかよ、そんな馬鹿な‥‥

 確かに、上に跳躍して、攻撃避けたよ?でもさ、何で俺は浮いてるんだ?小学校中学校の時の文集の“将来の夢”の欄に“空飛ぶ”って書き続けて来た成果?いやいや!あり得ねえって!

 さっきから、視線が痛いっ!何だよ、一体俺が何したっていうんだよ!まるで珍獣扱いじゃんか!翠琉だって、周だって、空飛んでたじゃねえか!‥‥そうだよ!皆飛んでたじゃん!あはは!俺なんか判ったぞ!?

「人は皆、鳥の仲間だったんだ!」

「「「んなわけあるか!!」」」

 うはあ、翠琉、白銀に周のキレイなハーモニー‥‥容赦のよの字もない否定しなくたってさ、いいじゃんか‥‥

「こんな馬鹿が‥‥こんな阿呆が、そうだというのか?認めぬっ!」

 黒尽くめ鎌男が何かキレた!?

「うわっ!?待て!落ち着け!!話し合おう!!話せば判る!きっと判る!!」

「何を、戯言をっ‥‥食らえ!!」

「のおおおぉおぉおお!!」