「時期宗主殺しの罪に問われておる‥‥現在は行方知れずの‥‥‥違うか?」
「あなたが現覇神一族の宗主殿か?」
静かに翠琉が正宗を見る。光なき眼は、だがしかし、そこにある真実を見抜くかのように真っ直ぐに正宗を向いている。
「いいや、違う‥‥わしは、破魔一族東方守護総代・覇神一族は分家、瑞智家当主34代瑞智正宗と申す。」
その言葉に、翠琉は落胆を隠し切れないように溜め息をついた。
「そうか‥‥ならば、覇神の末裔を知らないか‥‥否、末裔でなくてもいい‥‥当主ならば知っているはずだ‥‥神剣の在り処を‥‥‥」
「‥‥それは‥‥‥」
‥‥ちょっとまて!
「ちょっとシリアスな空気ぶち壊して悪いんだけど!俺だけ全然話見えてねえんだけど!?誰か説明してくれねえかなあ!?」
何か、俺だけのけ者チックなんだよねえ、さっきから!わっけわかんねえっつーの!大体、どこの分家だって!?初耳だぞ!ただの片田舎の道場じゃなかったのかよ!
っていうか、何で沈黙!?
俺、さっきシリアスな空気ぶち壊したよな?なのになんでこんな‥‥シリアスモード続行中なんだ?
「‥‥もう‥‥時期が来たんかもしれへんねえ‥‥‥」
‥‥母さん?何で、そんな悲しそうな‥‥‥
「由貴、後で儂の部屋に来い‥‥全てを話そう‥‥‥」
何これ、かなり深刻!?はっ‥‥話が見えない‥‥全然わけがわかんねえ‥‥俺、主人公だよな?一応‥‥こんなのってありかよ!?主人公が一番現状把握できてねえとかさあ!
って!あいつまた!
「おい!だから、どこに行く気だよ!?」
「もうここに用はない‥‥‥」
「お前なあ‥‥いい加減に‥‥‥!?‥‥じいちゃん‥‥?」
言い募ろうとした俺の前に、じいちゃんが立ち塞がる。
「‥‥‥‥右腕に禁忌の証である刻印を持ち‥‥破壊の呪を有するとまで言われておる‥‥呪われし巫女‥‥‥」
じいちゃんのその言葉に、翠琉は自嘲の笑みを浮かべる。
「本当に、御当主殿は情報通のようだ‥‥‥ならば問おう‥‥そこまで判っておきながら、なぜ私に構う?私に関わらぬが良い事など、先刻承知のはず‥‥‥」
「そうですね‥‥媛巫女‥‥この‥‥人殺しが!」
へ?どこから声が‥‥って庭の木がしゃべって‥‥るんじゃねえ!その木の上に人影が!?不法侵入じゃねえかこれって!
あ、でも生足美人な娘さんだから、許してしまおう!っていうか‥‥翠琉の知り合い?その前に、さっきから“人殺し”って一体‥‥‥
「‥‥あま‥‥ね‥‥?」
声に誘われるように、翠琉は庭先へと駆け出す。由貴と正宗、そして桜もその後を追うように表へ出た。
「神羅一族媛巫女‥‥神羅翠琉‥‥大御所様の命によって、神羅一族が庇守、神羅 周が処罰いたします。」
‥‥‥‥‥ヤバくねえ?これ‥‥‥‥
「弁解する気はない‥‥だが、時間をくれ‥‥せねばならぬ事がある‥‥それを終えれば、犯した罪はこの身をもって償おう‥‥」
「しないといけないこととは?」
「今は言えない‥‥‥」
「そうやって‥‥」
娘―‥‥周が宙を舞いながら呪を詠唱する。そしてそのまま翠琉に刃を向けた。翠琉も素早く身構える。‥‥双方、火花を散らし、ぶつかり合う。
「逃げる気ですか!?」
可愛い顔して、こええぇぇぇ‥‥人は見かけによらねえってことをしみじみと感じたぜ‥‥‥いや、もう言葉挟む間もねえ?
生足美人が持ってる杖から、すんげえ光の珠が出て来るし‥‥なんなんだよもう‥こいつ等人間じゃねえって、絶対!
‥‥あれ?そういえば‥‥昨日変な技使ったとき、翠琉数珠持ってたよな‥‥確か、それって今‥‥机の上じゃなかったけ?
「まずいんじゃねえのか?これって‥‥‥」
いやいや待てっ!何で“数珠がないとまずい”とか俺は思うんだよっ!なくても困らないかもしれないじゃんか!
翠琉は自らの懐に手を入れ、数珠を探る。だが、そこにあるはずの数珠がないことに気付き、舌打ちをすると、両手で印を組み呪を詠唱する。
「其は忌むべき芳命にして偽印の使途、神苑の淵へと今、招かん!」
その呪を詠唱し終わったと同時に、凄まじい破裂音と共に、光の珠は霧散した。その瞬間、翠琉は胸を押さえ苦しそうにその場に倒れ込む。
その隙をついて、更に畳み掛けるように攻撃を仕掛けた周に、白銀が飛び掛った。
「!?」
寸でのところで攻撃をかわす周‥‥その周に白銀は威嚇の唸り声を上げる。
「だい‥‥じょ‥‥ぶ‥‥私‥‥へ‥‥き‥‥白銀‥‥下がれ‥‥‥」
言うや否や、地を思い切り蹴って、周と対峙する。
いやその前に、人って空飛べたっけ!?なあおい!俺の常識が間違ってるのか!?人って空飛べないのが常識だろ!?何であの2人は飛んでんだよ!
ああもうっ!驚くことが多過ぎて、どこをどう突っ込んで聞けばいいのか判らねえっ‥‥とにかく!さっきの様子からして、あの数珠がないと翠琉がまずい‥‥これは事実なんだよな!?
「よし!」
考えがまとまったときには、俺はもう客間目指して駆け出していた。
「姉さま‥‥なぜ防いでばかりいるのですか?何故‥‥破壊の呪をお使いにならないのです!?」
周の攻撃をことごとく打ち砕きながら、翠琉が応える。
「使わない‥‥そう、真耶と約束した‥‥‥」
『‥‥る‥‥翠琉‥‥破壊の呪だけは、どんなことがあっても使うな、どんなことがあってもだ‥‥決して使ってはならない‥‥お前が傷つくだけなのだから‥‥‥』
そう言った数日後‥‥真耶はこの世を去った。
「何を今更‥‥なぜ、そこまで思うなら殺してしまったのです!?何故‥‥何故何も話してくれないのですか!?私はそんなに頼りないのですか!」
叫ぶように訴える周に、しかし翠琉は応えない‥‥‥
「何とか言ったらどうなんです!?」
−スパンッ!
勢い良く襖を開く。そして客間の机上にあるそれを確認すると、足早に歩み寄って手に取った。
「これだ‥‥間違いない!」
由貴は、数珠をしっかり握り締めると、一息つく間すら惜しむように客間を飛び出した。
―ザシュッ‥‥‥
錫杖の切っ先が、翠琉の手の平に深々と突き刺さる。それに構わず、翠琉は錫杖を握り締める。
なっ!?俺がちょっと目を離した隙に何てことになってるんだ!とっ‥‥とにかく、これを渡さないとな‥‥
振りかぶってぇ‥‥
「翠琉!」
第一球、投げました!
―パシッ!
ナイス俺!